令和5年度予備試験合格再現答案(刑事系)

 こんにちは、へるしろと申します。

 今回は前回に引き続き令和5年度の予備試験再現答案をアップしていきます。なお、受験直後に記した授権雑感についての記事も以下のリンクよりぜひご覧ください

司法試験予備試験論文式を受験して(刑事・選択科目) - healthy-law’s blog

 

刑法 評価:A

第1 設問1

  •  甲に監禁罪が成立するかにつき、甲の小屋の唯一の出入り口をロープで固く縛り、内側から開けられなくした行為が「監禁」(刑法220条)に当たると言えるか、監禁罪の保護法益との関係で問題となる。
  •  この点、監禁罪の保護法益を現実に移動する自由と考え、被害者が現実に移動の自由を侵害された場合にのみ「監禁」に当たると考える見解があり、このように考えた場合本件では甲は午後5時以降一度も目を覚まさなかったことから現実の移動の自由は侵害されておらず、監禁罪は成立しない。
  •  しかし、上記のような見解は睡眠中の被害者が監禁されている間に覚醒したかという偶然の事情により犯罪の成否が左右されるから妥当でない。そこで、同条の保護法益は移動しようと思った時に移動できる自由(可能的自由)であると解する。本件では甲は熟睡中につき監禁の事実を知らなかったが、Xが覚醒することもあり得、移動しようと思った場合に小屋から移動できなくなっているから、Xの可能的自由は侵害されている。
  •  したがって、甲の行為は「監禁」にあたり、監禁罪が成立するから主張は妥当である

第2 設問2

  •  甲がXの携帯電話機を取り出し、リュックサックに入れた行為につき、窃盗罪(刑法235条)は成立するか。
  • まず、Xの携帯電話機はXの占有するXの物であるから「他人の物」である。
  • そして、甲はXの意思に反して同携帯電話を自己の占有に移しているから、「窃取」にあたる。
  • そして、窃盗罪と、不可罰的な利益窃盗及び利欲犯的性質を有しない毀棄罪を区別するため、主観的要素として不法領得の意思が必要である。そして、不法領得の意思とは、権利者を排除してその物から生じる何らかの効用を得ようとする意思であると解する。
  • 本件では、甲は同携帯電話を取得し、Xから離れた場所に捨てようと考えているから権利者排除意思が認められる。また、甲は携帯電話を捨てようとしているから携帯電話の経済的用法に従った利用、処分の意思は有していない。しかし、携帯電話のGPS機能により捜査を撹乱しようと考えているから、携帯電話から生じる効用を得ようとする意思は認められる。よって甲には不法領得の意思が認められる。
  • よって、以上の通り甲に窃盗罪が成立する。
  •  甲がXの財布から3万円を抜き取った行為に窃盗罪は成立するか。
  • まず、3万円はXが占有するXの物だから「他人の物」にあたる
  • そして、甲はXの意思に反して3万円を自分のポケットにいれることで占有を取得しているから「窃取」にあたる。
  • もっとも、甲はXがすでに死亡しているものと誤信しているため甲の主観を基準にすれば占有離脱物横領罪(刑法254条)が成立するに過ぎず、窃盗罪の故意が認められないのではないか。
  • この点、死者には占有は認められない。しかし、殺害行為があった場合に殺害行為との時間的場所的接着性その他の事情を考慮して殺害行為に及んだ者との関係を全体的に観察すれば死者の生前の占有を侵害したと評価できる場合、窃盗罪が成立すると解する。
  • 本件では、甲が殺害行為に及んでから3万円を取得するまで、時間にして5分、距離にして100メートル離れているに過ぎないことからすれば、一連の行為を全体的に観察して、甲はXの生前の占有を侵害したと評価することができるから、甲の主観を基準にしても窃盗罪が成立する。
  • よって、甲には窃盗罪の故意が認められるから、甲の行為には窃盗罪が成立する。
  •  甲がXの首を両手で絞めた行為につき殺人罪(刑法199条)は成立するか
  • まず、睡眠中で無抵抗の人の首を両手で強く締め付けることは窒息等により人を死亡させる現実的危険のある行為であるから殺人罪の実行行為である。
  • そして、Xは崖から転落したことによる頭部外傷により死亡している。
  • もっとも、上記実行行為と結果との間に因果関係は認められないのではないか。

この点、因果関係とは行為と結果との間に、行為者に結果を帰責させるだけの客観的結びつきが認められるかどうかの問題である。そこで、行為と結果との間に介在事情が存在する場合、行為の危険性、介在事情の結果への寄与度、発生の異常性を考慮し、行為の危険が結果として現実化したといえる場合に因果関係は認められると解する。

 本件では、上記の通り甲の行為は人を死亡させる危険が極めて大きい行為である。しかし、Xの直接の死因は崖から転落したことによる頭部外傷であるから、介在事情の結果への寄与度は大きい。もっとも、山奥で殺人行為をした者が証拠隠滅等のために被害者を崖下に投棄することはよくあることであって介在事情発生の異常性は低い。よって、甲の行為に含まれる危険が現実化したということができるから、行為と結果の間に因果関係は認められる。

  •  もっとも、甲には上記の通り因果関係について錯誤があり、殺人罪の故意は認められないのではないか。

 しかし、因果関係について錯誤があったとしても主観と客観が同一構成要件内で符合している場合、行為者は規範に直面したのにあえてそれを乗り越えたということができるから、故意は阻却されない。

 本件でも、甲の主観、客観共に殺人罪という同一構成要件に収まっているため、故意は阻却されない。

  •  よって、甲には殺人罪の故意が認められ、殺人罪が成立する。
  •  罪数

以上の通り甲には二つの窃盗罪が成立し、これらは同一のXという法益主体を侵害するものであり、時間的場所的にも近接しているから包括一罪となり、殺人罪併合罪(刑法45条)となる。

 

(約3ページと4分の3)

 

刑事訴訟法 評価:A

第1 設問1

  •  本件住居侵入・強盗致傷の事実に本件暴行の事実を付加して甲を勾留することは、逮捕前置主義(刑事訴訟法204条1項)に反するのではないか。
  •  まず、本件住居侵入・強盗致傷については勾留の理由(刑事訴訟法60条)及び勾留の必要性(刑事訴訟法87条)があるから勾留の要件を満たしており、先行して逮捕手続が取られているから、逮捕前置主義にも反しない。
  •  本件暴行については、本件暴行の事実には先行して逮捕が行われていないため、本件暴行の事実での勾留は逮捕前置主義に反して違法となるのが原則である。
  • ここで、逮捕前置主義の趣旨は、勾留という最長で20日もの期間にわたる身柄拘束の前に逮捕という比較的短時間の身柄拘束を先行させることで捜査機関に慎重を期させることで被疑者の権利を守ろうとする点にある。したがって、すでに逮捕手続きがとられ、勾留の要件を満たしている他の事件がある場合にその事件に付加して勾留を行う場合、勾留の要件を満たしている限りにおいて別々に逮捕、勾留を行う場合よりも身柄拘束の期間が短くなり被疑者にとって有利である。よって、このような場合は逮捕前置主義の例外として逮捕を経ない勾留が認められると解する。
  •  本件では、本件住居侵入・強盗致傷の事実については上記の通り勾留の要件を満たしている。よって、本件暴行の事実を付加して勾留することは身柄拘束の期間において甲にとって有利である。したがって本件は逮捕前置主義の例外として、本件暴行につき逮捕をしなくても勾留可能である。
  •  よって、裁判官は本件住居侵入・強盗致傷の事実に本件暴行の事実を付加して勾留することができる。

第2  設問2

  •  下線部②の勾留は許されるか、甲はすでに本件住居侵入・強盗致傷の事実で逮捕、勾留されていることから問題となる。
  •  重複逮捕、重複勾留を認めると、法が204条以下で身柄拘束の期間を厳格に定めている趣旨を没却することとなるから妥当でない、もっとも、流動する捜査実務の観点からすると、再逮捕、勾留が一切認められないとするのは現実的でない。また、刑事訴訟法199条3項は再逮捕がありえることを前提とした規定であり、再勾留についてもこれを禁止した明文の定めはなく、逮捕と密接した手続きであるから一定の場合には再逮捕、再勾留は認められると解する。もっとも、被疑者の利益のために厳格な要件のもとに認められるべきである。

 そこで、①再逮捕、再勾留を必要とする新事情が出現し、②事案の重大性、先行の身柄拘束期間など被疑者の不利益を考慮してもやむを得ないといえる事情が存在し、③不当な蒸し返しといえる事情がない場合には再逮捕、再勾留も認められると解する。

  •  本件では、甲を釈放したのち甲の共犯者と見られる乙の、本件住居侵入・強盗致傷についてV方に侵入して金品を強取することを甲と相談し、乙が実行し、甲が換金する旨の役割分担をしたとの供述が得られた。これは甲が本件住居侵入・強盗致傷の共謀共同正犯としての正犯者であることを推認させるものであり、甲を逮捕する必要性が生じるだけの新事情が出現したといえる(①)。そして、住居侵入・強盗致傷は法定刑に無期懲役もある重大犯罪である。しかし、甲は先行する逮捕、勾留において期間制限の限界に近い期間の身柄拘束を受けているから、甲にとって再逮捕、再勾留はやむを得ないとは言えないとも思える。しかし、先行する逮捕、勾留は別個に行われればさらに長期間の身柄拘束がありえた以上、身柄拘束の期間が長かったとは言えない。よって、甲にとって再逮捕、再勾留もやむを得ないといえる(②充足)。また、先行する勾留の段階で、捜査機関は甲の所持品や交友関係にある者の取り調べ、防犯カメラ解析や聞き込みといった捜査を尽くした以上、不当な蒸し返しとも言えない(③充足)。
  •  よって、本件は例外的に再逮捕、再勾留が認められる場合にあたり、逮捕がすでになされているから裁判官は下線部②について甲を勾留することができる。

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