令和5年度予備試験合格再現答案(民事系)

こんにちは、へるしろです。本日成績表を確認しましたので今回はタイトル通り受験直後に作成した再現答案をAからFのランクとともにアップしたいと思います。今回は民事系科目です、なお、Wordからコピペした関係でナンバリングがおかしくなっています。実際には中点は打っていません。また、以下のリンクは受験した時点での感想を記した記事になっていますので併せてご覧ください

司法試験予備試験論文式を受験して(民事系科目) - healthy-law’s blog

民法

第1 設問1

  •  BのAに対する請求は請負契約(民法632条)に基づく代金支払い請求であると考えられるところ、これは認められるか。
  • まず、Bは甲を鑑賞可能な程度にまで修復することを約しているから、「当事者の一方が仕事を完成することを約し」たといえる。また、Aは甲と引き換えに報酬250万円を支払うことを約しているから、「相手方が仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約」したといえる。したがって本件請負契約は「その効力を生」じたといえるから、本件請負契約は有効である。
  •  そして、請負契約に基づいて報酬を請求するには「仕事の目的物の引渡し」(民法633条)を要するが、Bは仕事を完成していないからBは請負契約に基づいて報酬支払いを請求することはできない。
  •  もっとも、甲はAによる不適切な保管の結果修復不能となっていることから、危険負担(民法536条2項)によってBは報酬の支払いを請求できないか。
  • まず、本件においてBは甲を鑑賞可能な程度に修復する債務を負っているところ、Aはこの債務の「債権者」である。また、甲は修復不能となっているから「債務を履行することができなくなったとき」にあたる。よって、Aは「反対給付」たる250万円の支払いを拒むことはできない。そこで、「債権者」であるAの「責めに帰すべき事由」があったと言えるか、問題となる。
  •  本件ではAは掛け軸甲につき、標準的な保管方法に反して紙箱に入れるのみで屋外の物置に放置するという著しい不注意があった。また、Bが最後に甲の状態を確認してから半年程経過していたことからBは甲の状態について問い合わせたにも関わらずAは状態を確認することはなかったのであるから、Aには「責めに帰すべき事由」が認められる。したがって、Aは250万円の支払いを拒むことはできない。
  •  もっとも、Bはこれによって甲の修復作業を行う必要がなくなったから、「自己の債務を免れたことによって利益を得た」と言えるから、甲の修復に要する材料費等の40万円を除いてAに返還する必要があるから、Bの請求は40万円の範囲で認められる。

第2 設問2(1)

  •  DのCに対する所有権に基づく乙の引渡し請求について、乙をCが占有していることは明らかであるから、Dに乙の所有権が帰属するといえるかどうかが問題となる。
  •  まず、乙につきBD間で売買がなされているが、乙の所有者はCであるから、本件は他人物売買(民法561条)となっているところ、BはCの追認を得ていないから、Dは乙の所有権を売買によっては取得しない。
  •  次に、BはCから当初乙の売買を委託されているから、表見代理が成立するとも思える。しかしBは乙が自己の物であるとの説明をしており、「本人のためにすることを示し」(民法99条)たとは言えないから、代理によってCにBD売買の効果が帰属し、Dが乙の所有権を取得することはない。
  •  では、Dは乙を即時取得民法192条)しないか。以下即時取得の要件につき検討する。
  • まず、BD間の売買は「取引行為」にあたる。
  • そして、民法186条により「公然」「平穏」「善意」は推定される。
  • さらに、民法188条によりBの乙に対する占有が適法なものと推定される結果、Dに「過失がない」ことが推定される。
  • では、Dは「占有を始めた」といえるか。

この点、即時取得について定める民法192条の趣旨は、真の権利者の犠牲のもと、取引行為によって動産を取得した者を保護し、もって取引の安全を図ることにある。したがって、保護に値する占有をした場合でなければ「占有を始めた」とは言えないと解する。具体的には、一般外観上従来の占有の形態に変更を加える程度の行為が必要である。

本件ではDは占有改定(民法183条)により占有を取得しているが、占有改定では乙は相変わらず外観上Bの占有にあるから、一般外観上従来の占有に変更が加わるとは言えない。

よって「占有を始めた」に当たらず、Dは乙を即時取得しない。

  •  したがってDには乙の所有権は認められないからDの請求は認められない。

第3 設問2(2)

  •  本問も同様にDが乙の所有権を取得するかどうかが問題となる。
  •  まず、BはCから当初乙の売却につき代理権を授与されていたが、令和5年6月1日に乙の返還を求められ、その意思表示は到達した(民法97条1項)から、本件委託契約(3)により、代理権は消滅した。
  •  Dはその後にBから乙を購入しているから代理(民法99条)によってDが乙の所有権を取得することはない。
  •  もっとも、Dは表見代理民法112条1項)によって保護されないか。以下要件充足性を検討する。

 まず、Cは「他人に代理権を与えた者」であり、B D売買は「代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為」にあたる。そして、 Dは売買当時、Bは本件委託契約に基づく処分権限を現在も有していると信じているから、「代理権の消滅を知らなかった第三者」にあたる。

 では、Dには「過失」があるといえるか。

 まず、DはBから本件委託契約の契約書を見せられており、それから1ヶ月しか経っておらず、乙の実物も未だBの店内にあることから、DにおいてBが有していた代理権が消滅したことを知らなくてもやむを得ないといえる。よってDに過失はないといえる。

  •  よって、CがBD売買について「責任を負う」結果、BD売買の効力がCに帰属し、Dは乙の所有権を取得する。
  • したがって、Bの主張は認められる。

(3ページと4分の3)

評価:B

 

商法

第1 設問1

  •  乙社が提起した訴えは株主総会取消しの訴え(会社法831条)であるところ、取消し事由が認められるか。
  •  まず、乙社が提案した議案の要領を本件総会の招集通知に記載しなかったことが、「株主総会の招集の手続…が法令…違反」(会社法831条1項1号)の取消し事由にあたると主張することが考えられる。そこで、乙社に議案提出権を有しているといえるか、会社法305条の要件充足性が問題となるので以下検討する。
  • まず、乙社は甲社株式を保有しているので「株主」(会社法305条)である。
  • また、乙社がAに対して招集通知に議案の要領を記載するよう請求したのは令和5年4月10日であり、本件総会の行われた同年6月29日より「八週間前まで」である。
  • そして、甲社は公開会社であるから、取締役会設置会社である(会社法327条1項1号)そこで、305条但書の要件も満たす必要があるところ、乙社は令和4年6月頃から甲社株式を1000株保有しているから「議決権の百分の一以上の議決権」、「三百個以上の議決権」を「六箇月以上前から」有する株主であるから、但書の要件も満たす。
  •  したがって、乙社は305条に基づいて議案の要領を招集通知に記載することを請求することができるから、Aの措置は同条に反するから招集手続きに法令違反があるから、取消事由が認められる。
  • また、Fを取締役に選任する旨の議案が取り上げられていればFが取締役に選任される可能性があった以上、「決議に影響を及ぼさないものであると認められる」(会社法831条2項)とは言えず、裁量棄却も認められない。
  •  次に、乙社は乙社の代理人のEを本件総会に出席させなかったことが会社法310条に違反するとの主張をすることが考えられる。本件ではAは代理人資格を株主に限る旨の定款の定めに基づいてEの出席を拒絶しているから同定款の定めの有効性が問題となる。
  • 会社法310条が、代理人による議決権行使を認める趣旨は株主に議決権行使の機会を与えることにある。一方で代理人資格を無制限に認めると株主総会の撹乱の恐れがあるため、代理人資格を制限する必要もある。そこで、代理人資格と制限する定款の定めは、制限が合理的で、かつ相当といえる場合には有効と解する。
  • 本件では甲社の定款は代理人資格を株主に限定しているところ、代理人を株主に限れば、株主が株主総会を撹乱することは考えにくいため合理的である。また、株主であれば株主同士で代理を依頼するなどして議決権を行使することが可能であるから、相当といえる。したがって甲社の定款の定めは有効である。
  • したがって、Aの措置は310条に反しないとも思える。しかし、議決権を制限する定款の定めが、特定の株主の議決権行使を著しく困難にするものである場合は、310条の趣旨に鑑みて当該定款の定めは特定の株主に及ばない場合があると解する。本件では乙社は法人であるところ、法人自体が株主総会に出席することはできない以上、代理権を有する従業員に議決権を行使させる必要があり、これができなければ乙社が議決権を行使することはできなくなってしまう。したがって、本件で乙社には代理権資格を制限する旨の甲社の定款の効力は及ばない。
  • そしてEは乙社から株主総会に関する代理権を授与され、Aに対して委任状を示している。また、AはEが乙社の従業員であることも知っていた。よって、Eの出席を拒んだAの措置は310条に反し、法令違反の取消事由が認められる。
  • また、乙社は甲社株主を10分の1保有する株主で影響力は大きいため、Eが出席できなくても「決議に影響を及ぼさないものと認める」場合に当たらず、裁量棄却は認められない。
  •  したがって、乙社の主張は妥当であり、本件決議の取消しは認められる。

第2 設問2

  •  株式発行無効の訴え(会社法828条)の無効事由は、広く解すると手続きの安定性を著しく害するから、重大な手続上の違反があった場合をいうと解する。
  •  まず、本件では1株あたり10万円で発行されているところ、これが「特に有利な金額」(会社法197条3項)にあたり、株主総会の特別決議(会社法201条1項、309条2項5号)が必要となり、これが行われていないことが無効事由とならないか。
  • まず、本件発行の払込金額が「特に有利な金額」であるといえるかが問題となるところ、本件は公正価格が20万円であるところ、半額の10万円であり、資金調達の目的との関係でも著しく安い価格であるといえるから、「特に有利な金額」であるといえる。
  • もっとも、特に有利な金額での発行が、株主総会決議を欠く場合であっても、内部的意思決定手続を欠くにとどまるから、重大な手続上の瑕疵とは言えず、株式発行の無効事由とはならない。
  •  次に、本件発行について株主に対する通知及び公告を行わなかったことが、会社法201条3項に反し、本件発行の無効事由とならないか。
  • 同項の趣旨は、株主に株式発行差止め(会社法210条)の機会を与えることにあり、

重要な手続であるから、通知及び公告を欠いた場合、会社において差止事由のないことを立証しない限り株式発行の無効事由となると解する。

  • 本件においては、本件発行が「著しく不公正」(会社法210条2号)にあたるか、問題となるところ、会社の支配権維持のための新株発行は、それを正当化する特段の事情がない限り「著しく不公正」といえると解する。なぜなら、会社からの受任者である取締役が、会社の所有者たる株主の構成を操作できるとすることは、会社法の基本的な仕組みに反するからである。
  • 本件発行においては特段資金需要はないにもかかわらず行われたもので、支配権の維持を主要な目的として行われているといえる。また、乙社による甲社株式の取得が甲社にとって著しく不利益でこれを防止する必要があるなどの特段の事情もない以上、本件発行は「著しく不公正」であり、差止事由がある。
  • したがって、甲社において差止事由の不存在を立証することはできないから、通知および公告を欠いた本件発行には無効事由がある。
  •  よって、乙社の主張は妥当であり、本件発行は無効である。

(約4ページ)

評価:B

 

民訴法

第1 設問1

  •  Yの主張は、②訴訟の提起は①訴訟の既判力(民事訴訟法114条1項、以下単に「法」とする)に抵触するから認められない、というものであると考えられるところ、この主張は認められるか。
  •  まず、既判力とは、前訴判決が後訴に有する通用力をいい、前訴と後訴の訴訟物が同一である場合、先決関係にある場合、矛盾関係にある場合に後訴に及ぶ。

 本件では、前訴の訴訟物は甲土地所有権に基づく返還請求権としての建物収去土地明渡請求権であるところ、②訴訟の訴訟物もこれと同一であり、前訴の既判力が及ぶ結果、②訴訟は不適法として却下されるべきであるとも思える。

  •  もっとも、本件では①訴訟は控訴審において訴えの変更(法143条1項)がなされているところ、訴えの交換的変更は、新訴提起に旧訴の取り下げを組み合わせた複合行為であると解する。訴えの交換的変更は旧訴の係属を消滅させるものであるから相手方の同意を要する(法261条2項)と解すべきであるためである。

 本件でも、訴えの交換的変更が行われているところ、これは旧訴たる①訴訟の取り下げを含むから、①訴訟の係属は遡及的になかったものとみなされる(法262条1項)ため、そもそも甲土地所有権に基づく建物集居土地明渡請求権に関して既判力は生じない。

  •  よって、Yの主張は認められない。

第2 設問2

  •  Xが取るべき手続上の手段として、和解無効確認の訴えが考えられる。
  • まず、和解は確定判決と同様の効果を有する(法267条)ところ、和解を無効とすることで、和解の効力を消滅させることができるから、Xの権利実現には一定の効果がある。もっとも、和解を無効としても当初の訴訟が復活するわけではないから控訴審がそのまま続けば勝訴したと考えているXにとって適切な方法とは言えない。
  • よって和解無効確認の訴えを採ることは適切でない。
  •  次に、Xとしては期日指定の申立て(民事訴訟法93条)をすることが考えられる。
  • 上記の通り、Xにとっては控訴審を継続させることが望ましい。この点、期日指定の申立てによれば、和解により終了した前訴を復活させ、控訴審から継続して真理を行うことができるから、Xとしては継続した控訴審において勝訴することで権利を実現することができる。
  • よって、Xは期日指定の申立てをするべきである。

(2ページ)

評価:E